【こだわりの店】

最近になって、食べることに随分こだわるようになった。以前は、早ければ良いというんで、牛丼やハンバーガーで過ごすこともあった。安いという理由だけで社員食堂を利用することも多かった。ある時、自分は、あと何回食事をすることが出きるのかと言うことを考えたことがあった。あと何冊本が読めるかと同じ問いかけだった。急に毎日の食事をナイガシロにするのはいけない事ではないかと思いだした。それからと言うもの、かなり吟味して食べる店を選ぶようになった。最近は、絞り込んだ店に繰り返し行くようになった。そこで、自分の好みで選んだこだわり店の紹介をしていこうと思う。会社が江東区の東陽町にあるのでその近くが多いので遠い人には勘弁してもらいたい。

平成17年12月26日
江東区東陽４−１０−６
０３−３６４９−７２８０

東陽町の木場寄りの交差点から、四つ目通りを錦糸町の方へしばらく歩いていくと、右側にインド料理の店がある。道路を隔てた向かい側に深川高校が見える。何年か前の夏の暑い日に行ったことがあったが、その時は、インド人だけでやっていて、メニューも分かりにくくて、何を食べて良いか分からず、一度行ったきりで止めてしまった。

先日、その店に行ってみた。混んでいたので、どこに座るか戸惑っていると、日本人の女性が出てきて奥のテーブルに案内してくれた。入ってみて回りを眺めると、中の雰囲気もメニューも一変していた。室内にはインド音楽が流れている。メニューも随分整理されて見やすくなっていた。カレーだけのA定食が750円、カレーが２種類ついたB定食が850円、さらに鶏肉がついたC定食が950円、それに、1300円の盛り沢山のスペシャルメニューと沢山の単品料理が並んでいる。ナンかライスかを選べるようになっている。カレーは何種類もあり、その中から好きなものをチョイスできる。

料理を頼むとAとかBとか書かれた裏紙のようなメモ用紙が渡されて、それをレジに持って行って精算するようになっている。これも、大らかでインド的だと思った。シーフードカレー、チキンカレー、大豆入りカレーなど、10種類以上のカレーがある。ヨーグルトカレーという珍しいものがあったので頼んでみた。辛くてすっぱい不思議な味だったが、ナンにつけて食べると甘味が出て美味しかった。ナンでは、すぐ腹が減ってしまうかと思ったが、意外に腹持ちが良かった。

帰り際に壁を見ると、インド独立の英雄、ガンジーが糸を紡いでいる絵が飾ってあった。その下に「Work is worship,true independence lies in the Charkha.」という英文が書いてあった。「仕事が出来ることは有り難いことだ。この糸巻き機が奴隷から解放してくれた。」というような意味だろう。ここで働いているインドの人たちは、こんなことを考えながら仕事をしているのだろうかと思った。そんな、我々と異質な人たちが作った料理を食べるのも一興だ。カレーが好きで、異国情緒を味わいたかったら是非、行ってみて欲しい。

第7回　中華料理　「鳳雅」

平成17年11月11日
江東区東陽4−9−３
電話　03−3649−9843

東陽町には、人気のある中華料理店がある。「好好」（はおはお）と言う変わった名前の北京料理の店だ。６〜７０人は入れる大型の店で味も良いし量も多く、いつ行っても混んでいる。昔は、演劇の好きな話のおもしろい親父さんがいて、昼だけでなく、夜も良く飲みに行っていた。その親父さんが数年前に亡くなった。その後、何度か行ってみたが、メニューが変わって、待たされたことが多くなった。それが何回か続いてから、足が自然に遠のくようになった。新しい中華料理店を探さなければならなかった。

「好好」から歩いて数分の所に、「鳳雅」と言う店があるのは前から知っていた。中国人のおばさんと、料理人の二人でやっている小さな店だ。3種類の日替わり定食が入り口の白板に書いてある。中に入ると、おばさんが、「今日、何する？」と馴れ馴れしく話しかけてくる。このおばさんは日本語がよく分らない。以前、定食にないホイコーローを頼もうとしたが、結局、通じなくて定食にしたことがあった。帰りに、お金を払うと「謝謝」と言ってくれる。

料理は、中国の家庭料理を思わせる。唐辛子が良く使わていて味は辛目の四川風の料理だ。「カシューナッツと若鳥とピーマンの牡蛎の油炒め」とかいう長ったらしいメインの料理に漬物と小さい餃子などがつく。最後に、レモンが入った砂糖水に寒天が入ったものが出てくる。これが一服の清涼剤で、食べると口の中がサッパリする。おばさんのこだわりなのだろう。テレビはいつも、NHKのニュースが流れている。他の番組の会話は、おばさんには速すぎて無理なのだろう。お客さんは、近くの江東区役所の職員とスーツ姿のサラリーマンだ。ほとんどが常連客で頼むものも決まっている。

江東区役所のおばさんたちが、ある時、3月いっぱいで、この店が無くなるという話をしていた。４月にきたら、その通り、のれんが降りていた。２週間くらいして来てみたら、いつもの明るいおばさんの姿があった。中国に住んでいるお母さんの具合が悪くて帰っていたということだった。役所のおばさんたちの話は喧しいので、つい耳に入ってきてしまう。忙しいときには、日本の大学に通っている娘が手伝いに来ることがある。従業員が少ないので人件費に食われてつぶれることはないと思うが、４月の一件があるので、空いているときなどは店の存続を心配しながら食べている。「謝謝」のおばさんには頑張って欲しい。

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残念ながら心配が現実になってしまった。平成17年12月29日を持って閉店の紙が貼ってあった。良い中華料理の店をまた探さなければならない。胃袋を満たしていくのは大変だ。

平成15年10月9日
東京都江東区
03‐3615‐7687

会社に入って間もなくのころ、先輩に連れられて初めてこの店に来た。たくさんの人が小さなテーブルでひしめき合っている。随分、混んでいる店だなと思った。着ている服から、ペンキやさんや、道路工事関係の人が多い。みんな、豪快にご飯を口に運んでいる。ここに来て、先ず戸惑ったのは、何をたのんだら良いのかという事だった。メニューがずらっと並んでいる。目移りがする。先輩は、鳥のから揚げ三つとメンチなんてメニューにないものをたのんでいた。そういうことも出来るのかと思った。それに気づくと少し気が楽になった。ボクは、レバニラ炒め定食とメンチをたのんだ。メンチはどうでも良かったのだが、先輩のまねをしてみたかった。

トンカツ「まさきや」でトンカツをたのむ人は少ない。トンカツ以外に牡蛎フライ、アジフライ、海老フライ、鳥のから揚げ、メンチ、コロッケ、ハンバーグ、スタミナ焼き、生姜焼き、レバニラ炒め、などの豊富なメニューが揃っている。トンカツや牡蛎などを揚げているのが、ここの主人。店の人は、みんな、お父さんと呼んでいる。昔からよく見かける肉屋さんの体型をしている。この道、何十年といった風格がある。無造作に揚げているようで指先の動きに狂いが無い。持ち帰り用のから揚げ弁当や、店内の定食の揚げものは全て一人でカバーしている。まさに、この店の大黒柱だ。前はもっと狭い場所だったが、２〜３年前に、隣のラーメン屋の入っている広い部屋を買い取りそこに移った。主人の多角経営が成功して、かなり繁盛している。

厨房には、痩せたお兄さんが、腕まくりをして大きな中華鍋一つで料理を作っている。この人も若いがかなりの技を持っている。テキパキと料理を作っては皿に盛っていく。皿には、あらかじめ千切りのキャベツが乗せてある。マヨネーズは「まさきや」特製の少し茶色がかった味の濃いものだ。パセリが料理の完成の合図になっている。オーダーされた揚げ物や料理が全て揃うとお皿にパセリが乗せられる。これに、味噌汁、ご飯にタクワンがつけられてテーブルに運ばれる。

接客係りの女性は、主人の娘さんと妹さんのようだ。もう一人、お勘定やその他の雑用をやっている男の人が、娘さんの婿さんに見える。サラリーマンをやっていたのだが、トンカツ店に婿に入ったので、脱サラして手伝っているという感じだ。全員が家族だけあって息が合っている。こんなふうに家族で仕事が出来たら幸せだなと思うことがある。

この店で良く食べるのは、レバニラ炒め定食だ。ボクは、レバニラ炒め定食に関しては、かなり、詳しい。そこらじゅうでレバニラ炒め定食を食べている。おかげで尿酸値が一時随分高くなったことがある。レバニラ炒めという料理を初めて知ったのは、天才バカボンのマンガだ。バカボンのパパはレバニラ炒め定食が大好物なのだ。子供のころからいつかは食べてみたいと思っていた。

レバーとニラというのは、どちらも精が付きそうな感じがする。両方とも臭みがあるので子供たちには人気が無い。しかし、両者が合わされると、お互いの欠点をうまく補い合って深みのある良い味がでる。レバニラ炒めも色々食べてみると、オーソドックスな塩コショウと醤油で味をつけたもの、カタクリ粉でトロ味をつけたもの、塩味だけのさっぱりしたものなど、かなりバラエティーに富んだものがある。どこかの店でレバ炒め定食というのを間違えて、たのんだことがあったが、本当にレバーだけで、臭いが鼻に付いて食えなかった。

「まさきや」のレバニラ炒め定食はどこのものとも違っている。普通は、レバニラの他にモヤシが入っているのだが、ここはモヤシの代わりにキャベツを大きく切ったものが入っている。味は味噌仕立てだ。赤味噌に香辛料が入っている。回鍋肉（ホイコウロウ）の味に似ている。さっぱりしていてコクがある。レバニラを食べた後に残ったキャベツの千切りを残り汁に付けて食べても美味しい。これが、750円。メンチを付けると850円になる。味が濃いので毎日食べると血圧が上がりそうだが、風邪のひき始めや睡眠不足のときなど、スタミナをつけたいときに食べると元気がでる。庶民のための正しい定食店さんがトンカツ「まさきや」だ。

平成15年10月6日
東京都江東区
03‐3640‐4666

昔は、寿司と言うと結婚式やお祭りという正式な儀式の席でしか食べられなかった。オニギリなどとは違う神聖な食べ物だった。寿司の歴史は古く、本来は保存食で魚、米を長期保存するための知恵だった。琵琶湖に伝わる鮒をつけこんだなれ寿司などがその原型をとどめている。紀元前より穀物の発酵を利用した米作民族特有の保存食品で、 ベトナムやミャンマー、中国から日本に渡ってきて、九州、中部、関東地区へと 広がったと言われている。今の寿司が酢飯を使うという所にそのなごりが残っている。今の江戸前の寿司の姿になったのは比較的新しく、江戸時代の中期以降と伝えられている。

この寿司のイメージがここ10年くらいで大分変わってきた。昔は、寿司を握るのは寿司職人と決まっていて、白木のカウンターに座って、食べたいネタを頼むと威勢良くさっと作ってれた。それを二本の指でつまんでさっと口のなかに入れる。シャリ、ガリ、むらさき、なんていう言葉が活きの良さを引きたてた。最後はあがり１丁と言うと、大きな湯のみにお茶が出る。それは粋で旨いものだった。しかし、寿司がスーパーやコンビニで売られるようになると、寿司が、ほか弁と同じ扱いを受けるようになった。コンビニの寿司は、寿司の格好はしているが、本当の寿司とは違うものだ。似て非なるものとはこのことだ。寿司としての魂が入っていないように感じられる。ビニールのパックに入った寿司には、寿司としての誇りも威厳も感じられない。

寿司の世界のもう一つの出来事は、回転寿司の出現だろう。寿司を作ってもらう方式から、寿司を選ぶ方式に変わった。スーツのオーダーメードと吊るしの違いだ。寿司職人になるには厳しい修行が必要で、飯の炊き方、握り方、ネタの選び方、包丁の入れ方など、一人前になるためには何年もかかると言われている。寿司を握る技は、まさに職人芸だ。回転寿司の職人は、寿司を握ることは無い。寿司ロボットが作ったシャリの上にわさびを付けて、機械で均等に切られた刺身を乗せてお皿に置くだけだ。技術は何もいらない。誰でもそれなりの格好さえすれば寿司職人になれる。人材確保の観点からは、この方が好都合かもしれない。人気のない皿は、ぐるぐる回って干からびている。諸行無常、行く末が心配になる。ずっと見ていると目が回ってくる。

さて、今回紹介する鮨処、匠（たくみ）は、これらの寿司もどきではなく、本物を食わせてくれる寿司店だ。東陽町から運転試験場に行く道の途中の古いビルの4階にある。３階はパチンコ店でやかましい。店の作りはオーソドックスな寿司店である。ヒノキの一枚板のカウンタ席、椅子席、奥に座敷がある。店の中は綺麗に掃除がされていて気持ち良い。特に木のカウンタはしみ一つ無い。その奥に二人の寿司職人が寿司を握っている。お客の対応をしながら自然体でに寿司をにぎっている。一人は、白い仕事着が良く似あう２枚目タイプ。もう一人は、ゴツイ顔をしたお兄さんだ。大きい手にちょこっとご飯を乗せて、お客の対応をしながらそっと握っている姿は、お父さんが赤ちゃんの手を包み込んでいるようだ。

ボクの勘では、大きいほうの人は、若いころは相撲を取っていたのではないかと思う。額にぶつかり稽古で出来たような傷がある事と、カウンタの横に貼ってある日本相撲協会のカレンダからそう思う。相撲とりが料理人になることは、それほど珍しいことではない。二人の職人以外は、おばさんが一人いるだけだ。注文から、配膳、お勘定まで全てをこなしている。この人、なぜかいつも、何をしに来たの、みたいな怖い顔をしている。不機嫌ではないのだろうが、決して、客に対して、いらっしゃいませなどとは言わない。席につくと大きな湯のみをドンと置く。常連客は大体、昼の定食寿司の1.5人前を頼むので、1.5と言うと注文が済んでしまう。勘定のときも1.5と言って1000円札を渡すとそれでおしまい。非常にシンプルなコミュニケーションだ。

カウンター席に座ると、木の四角い板に乗せられて寿司がでてくる。目の前で寿司職人が握った寿司はやはり旨い。シャリの部分がほんのり暖かい。これが人肌というのだろう。回転寿司やスーパーの寿司はご飯が冷えきっていて堅くなっている。ネタは、マグロ、海老、はまち、サケ、このしろ、イカ、たこ、あなご、あじ、ほたて、カッパ巻き、卵焼きという高級ではないが、代表的な寿司ネタが並んでいる。これに、味噌汁がつく。マグロのアラや海老の頭でダシをとっている。具にはモズクが入っている。ちゃんこ鍋で鍛えたダシの取り方が活かされているようだ。二日酔いで食欲の無いときなど、この味噌汁がしみわたる。1000円で本物の寿司を食べたかったら、出かけてみて欲しい。

先日、海外の寿司を紹介する番組で、フランスの回転寿司を見た。こちらのは、回転する寿司をガラスで囲ってあり、衛生的だ。所々に寿司に混じって氷が回っている。温度と湿度を保っているということで日本のより神経がこまやかだ。その番組で驚いたのは、冷凍食品の寿司があるということだ。冷凍庫から取りだして電子レンジで戻すと食べれるようになっている。そこまでして寿司を食いたいものかと思った。また、アメリカに行ったときに寿司をコーラで食べている人を目撃したことがある。寿司が時と場所を経てどんなものになっても良い。いや、むしろ、それが必然だ。しかし、本家本もとの由緒正しい寿司、日本人が本当に旨いと感じる寿司は、日本にずっと残しておくべきだと思う。

平成15年10月1日
東京都江東区東陽4丁目6-14
電話　03-3645-4129

レストランでステーキを食べる時は、どうしても少し身構えてしまう。右手にナイフ、左手にフォークを持ち、肉をゆっくり切っては口に入れ、ご飯をフォークの背に乗せて食べる。スープは音をたてないで静かに喉に流し込む。こんな食べ方をしていると、からだのどこに肉が入ったのかわからなくなる。ファミリーレストランなどでステーキを食べることがあるが、あまり旨いものに出あったことが無い。神戸とかに行って専門店でけた違いの値段で食べれば確かに旨いが、それを昼飯代わりに食べるわけにはいかない。所詮、ステーキは庶民のものではないと、ずっと思っていた。

加真呂は、こんなステーキの概念を根底から変えてしまった店だ。このコーナーの2回目に紹介した魚彩・鴨川から20メートルくらい東に行ったところに素人っぽい字で書かれた看板が見える。この看板は、BSE騒動があったときに急遽、日本の牧場で育った牛肉で安心というコピーが書き加えられた。店内に入ると、中央にステーキを焼く鉄板があり、体格の良いターバンを巻いたタイガージェットシンに似たインド人が無言でステーキを焼いている。このインド人を取り巻くようにカウンター席がある。その他に4人がけのテーブルが二つある。テーブル席はすぐうまってしまうので、ほとんどの人がカウンターに座ってそのインド人が焼くステーキを見ている。席につくと、麦茶と野菜サラダが即座に出てくる。伝票に書かれた料理とカウンター席の番号がリンクするようになっている。伝票がインド人の前にたくさん貼りつけてあり、それを見ながら、配膳のおばさんが出来あがった料理を運ぶという仕組みだ。かなりスムーズに流れている。

忙しいときにはインド人の女性が加わる。この女性は妹のようだ。顔つき、体格がなんとなく似ている。聞いたわけではないが、インドに残した年老いた両親と、貧しい兄弟を養っている親孝行な兄妹という感じがしないでもない。定食店や寿司屋で働く外国人にあまり良い印象はない。いつか、色の濃い外国人が寿司を握っている店があったが、白いシャリと指のコントラストは見事だったが、あまり食欲は湧かなかった。ステーキの店では何の違和感もない。かえってチャラチャラしたお兄さんが作っている店より好感が持てる。

鉄板が良く焼けているのか、肉はあっという間に焼ける。ラップで小分けされた角切りの牛肉を鉄板の上に乗せてジュージュー焼く。塩、コショウ、香辛料を降りかけたあと、隠し味に赤ワインをかけてステーキは完成。あらかじめ、お皿にゆでたモヤシとコーンがセットされていて、肉をそこにとりわける。メニューの種類はかなりあるが、サイコロステーキを注文する人が多い。サイコロステーキは3種類あり、120グラム、180グラム、240グラムがそれぞれ、650円、850円、1000円となっている。

木製の大きなお椀の味噌汁とご飯が付く。味噌汁は、こういう店には珍しく、タマネギをベースにしたものである。ご飯は、新潟のコシヒカリを使っているというだけあってかなり旨い。おかわりは一回まで無料。肝腎のステーキだが、時にレア‐になったりミディアムになったりするもののやわらかくて美味しい。タレは味噌ベースと醤油ベースがあり、両方試してみたが醤油のほうが口にあった。ナイフとかフォークなどは置いていない。日本人らしく割り箸だ。何の気兼ねも無い。

この値段でこれだけのステーキが食べられる店は少ない。庶民にステーキを開放してくれた店だ。旨い肉を食べたいときには、ネクタイをはずして気楽に行ってみよう。味は私が保証する。

平成15年9月26日
横浜市金沢区六浦1‐1‐7　102号
電話　045‐786‐2584

毎月、第3木曜日に、会社が終わった後、近くのYMCAで6時からブロードバンド研究会という集まりに出ている。７時に講演が終わってから、1階の食堂で懇親会をやる。ビール、お酒、焼酎などを飲みながら寿司、オードブルなどをつまむ。場の雰囲気で終わる時間はマチマチだが、９時には手締めが入ってお開きとなる。その後に２次会に行くと、金沢八景に着くころには夜中の１２時を過ぎてしまう。

この時間になると開いている店も限られていて、金沢文庫の駅前の中華料理店、環状４号線の花屋の隣の牛丼店、そして、今回紹介する鳳城くらいしかない。以前は、牛丼店によく行っていたが、旨くもなんともない空腹を満たすだけの食事はむなしかった。ここには、大声で携帯電話で話したり、だらしない格好でテーブルに足を掛けたりということを平気でやっている茶色に髪を染めた今時の人のたまり場になっている。２８０円という安さと注文したら即座に出てくる牛丼は、今時の人たちには魅力的かもしれないが、ボクにはなじめなかった。

この店はバスで良く見かけてはいた。赤い派手な看板が出ている。上海に一度だけ行ったことがあるが、中国の料理屋は確かにこんなデザインだった。２次会が済んで大分酔いがまわったある日、酔い覚ましもかねて、ぶらぶら、家まで歩いて帰ろうと思った。いつもは権現山の方に曲がって良い空気を吸いながら歩くのだがその日は、表通りに出てみようと思った。こんな時間に歩いている人は少なかった。

しばらく歩くと右手にいつもバスから眺めていた中華料理屋が見えてきた。こんな遅くまでやっているのかと思った。ガラスの窓にメニューが貼ってある。それを見るとかなり本格的な料理だ。ボクは、ラーメン屋に毛の生えたような店だろうと思っていたのでそのメニューは意外だった。最初の店というのは入りにくいものだ。中をうかがいながら入るのを躊躇していると、小柄な女性が扉を開けて中国語なまりで「いらっしゃいませ」と言って手招きをした。ボクは、誘われるまま中に入った。店内は意外に広く、朱色のテーブルで体育会系の学性らしき若者が随分豪勢な食事をしていた。

先ほどの女性がメニューと水、お絞りを持ってきた。かなり豊富な料理があるようだ。ふかひれのスープからレバニラ定食まで揃っている。中華丼を頼んだ。厨房で鍋がぶつかる音と野菜をいためるジュージューという音がひとしきり高くなった。すぐに出て来そうに無いので、鞄から本を取りだして読むことにした。広いテーブルでこんな夜中に一人で本を読んでいると贅沢な気分になる。出てきた中華丼は本格的なものであった。大きめの海老とホタテ貝、モンゴウイカが入っている。ちくわや蒲鉾でごま化していない。野菜もたっぷり。味が少々甘めだが塩分を控えた方が良い酒のみには、かえってありがたい。かなりの量がある。これで７００円というのは申し訳無い気がする。餃子を付けても１０００円ちょっとだ。

ここは、ラストオーダーが夜中の１時で２時近くまで店はやっているようだ。一度、１時過ぎに入ったことがあるがかなり混んでいた。厨房の方からヨチヨチ歩きの小さな子供が出てきた。いろんなものが珍しくてテーブルの上のものを手当たり次第にいじっては、怒られていた。料理を運んでくる人の子供らしい。丸坊主で実に可愛い。まだ、言葉はほとんどしゃべれないようだった。こういう子供が店にいるのもアットホームな感じでいいと思う。精算を済ませたあと、この店は何料理かと聞いてみたら上海料理ということだった。中華街で本格的な中華を食べたいと思ったら、だまされたと思ってこの店に寄ってもらいたい。中華街より安上がりで本格的な中華料理が堪能できる。

平成15年9月19日
江東区東陽４‐６‐１９
電話　０３‐３６４０‐５５０５

東陽町の駅から南砂町の方向に歩いて２つ目の信号をNTTの方向に曲がると食べ物やが並んでいる。東陽町でもかなり賑やかな場所だ。そのビルの１階に横長の和紙に墨で書いたメニューが貼ってある。かなり達筆だ。達筆すぎて読めないところもある。少し前に料理の達人というテレビ番組で道場六三郎が書いていたあれだ。このメニューを書いているのが、鴨川の親父だ。

鴨川はこのビルの4階にある。鴨川という名前の通り、本格的な京料理の店という造りだ。もう少し綺麗なビルに入っていれば良いようなものだが、時の経過に勝てなかったのだろう。この店は、人が並んでなかなか入れないことがある。料理が出てくるまでに時間がかかるので少しお客が増えると行列になってしまうのだ。中に入るとかなりの年齢の親父がヒタスラ天ぷらを揚げている。天ぷらの油で自分が揚げられたように鼻の頭が赤くなっている。八十歳に近いかもしれない。あるいは過ぎているかもしれない。この親父が行列の原因の一つかも知れない。

この親父の他に和服を着た3人の中年のおばさんが注文を取っている。決して素人ではない。若いうちから水商売をしているらしく客の扱いがうまい。初めてのお客にも気軽に話しかけて、にわか常連客を増やしている。カウンター、テーブル席、座敷とかなりのスペースがある。座敷はいつも満員で滅多に登れない。

定食と煮魚、焼き魚、天ぷらがメインの料理だ。どの料理もなかなか凝っている。焼き魚を頼むと鮭、吸い物、ご飯以外に香のもの、酢の物、煮物、デザートの甘いものがお盆に乗ってくる。女性客にターゲットを絞っているといったメニューだ。周りを見渡すと確かに女性が多い。僕なんかは、こんなに色々なものはいらないから値段を下げてくれと言いたいくらいだ。親父が揚げている天ぷら以外は、バックヤードで作っている。味はまあまあだが見た目が勝っている。

BGMに琴の音が流れていたりして、京都の店に来たような優雅な雰囲気を味わえる。定食、焼き魚など昼のメニューはほとんどが1000円。仕事で疲れたときに行きたくなる店だ。

この店は会社からかなりの距離にある。行って食べて帰ってくると昼休みの時間をほとんど使うことになる。それでも行くということは、それだけ価値のある店なのだろう。ここは、あまり新しいとは言えない小さなビルの２階にある。看板も小さく控えめにでている。初めての人には見つけにくいし入りにくい。階段を登っていくと重い引き戸がある。

ガラッと開けると、いつもきちんと髪をセットしたロマンスグレーの親父さんと目があう。かなり大柄な人だ。町で会ったら、料理人には絶対に見えない。聞いたわけではないが、この人は、昔は県警とかそういう堅い仕事をしていたが、考えるところがあって警察関係の仕事から足を洗って、退職金を頭金にしてこの店を出した、という雰囲気がある。カウンターにさりげなく置いてある壷には、警視庁何々課というような文字があることからも十分な証拠がある。長年、付き添った古女房も、こういう仕事はまんざらでもない。子供の手が離れたという理由もあり、思いきって始めてみようということになったのだろう。

一枚板で出来たカウンター席と畳の席がある。全席合わせても３０席ぐらいだろうか。一人の時にはカウンターに座る。奥さんらしき人が、おしぼりとお茶を持ってくる。小さいメニューに品の良さを感じる。ここのメニューはほとんどが魚、焼き魚、煮魚がそれぞれ数種類、あとは、生姜焼き定食がある。ここで一番旨いのは、銀鱈の煮物だと信じる。マコガレイの煮たのも旨いが、やはり銀鱈は格別だ。銀鱈は、他の魚より５０円程値段が高い。やはり売れ筋商品なのだろう。大根の輪切りとキャベツのゆでたものが必ずついいてくる。大根は表面がかなり黒いが食べてみるとからくない。ちょうどいいかげんに火が通っている。銀鱈も大根に似て面は黒いが中身はやわらかい。箸で魚肉をそぐようにしてほぐすと、表面に良質の油が旨そうに滴り落ちる。もう少し食べたいというところでご飯も終わるようになっている。キャベツを煮汁に付けて食べると得をしたような気分になる。もう一つ、つまみのようなものが付いてくる。これは、酒のみ親父の趣味だなとわかる。ちょっとしかないのだが、酒のさかなにはもってこいだ。しかも、毎日変えている。一度、鶏の肝にゴボウの細切りを煮こんだものがでたが、あれは旨かった。

カウンターで親父の料理姿を見ていると、テレビを見ながら随分のんびりとやっている。奥さんも一緒に見ている。決して急がない。旨いものを食うには、それなりの時間が必要と言わんとしている。親父の所作を見ていて、飽きたころ懐から文庫本を２〜３ページ読み始めると料理が出てくる。ここの飯を食べると、満腹感より、満足感が勝っているように思う。少し健康になったような気分になる。商売っけがなさそうな素朴な感じの奥さんの対応も好ましい。