災難をのがれるための妙法

新潟の三条の与板という所に、山田杜皐（やまだとこう）という俳句仲間がいました。

五合庵から与板までは五里ほど離れていて歩いて半日ほどかかりましたが、杜皐さんは造り酒屋でもあったので、
そこに通っては酒を酌み交わして話に花を咲かせるのが常でした。

一八二八年の冬、良寛さんが亡くなる二年前の七一歳のとき、三条で一五〇〇人以上の死者が出る大地震が起こりました。
良寛さんの住んでいる五合庵は被害が 少なかったのですが与板の方は被害が甚大でした。

杜皐さんの家もつぶれてしまって子どもをなくしました。

そのとき、良寛さんは、このような見舞の手紙を送りました。

　”地震は信に大変に候。野僧、草庵は何事もなく、親類中死人もなくめでたく存じ候。うちつけに、死なば死なずに永らえて、かかる憂きめを見るがわびしさ”　としたためたあとに、
　”災難に逢う時節には災難に逢うがよく候　死ぬる時節には死ぬがよく候　是はこれ災難をのがるる妙法にて候　かしこ”　と結びました。

不運が続き大災害に遭ったとき、そのことを「災難」としてしか捉えることができないならば、
いつまでもその不運を嘆いて生きていくしかありません。

過去をふりかえって愚痴をいってもしかたがありません。
こうなってくれないかな、といたずらに、絵空ごとの未来を夢みてもどうにもなりません。

子どもをなくし悲嘆にくれる友に、そのことに一切触れることなく、

「人として生まれたからには生老病死からは逃れることはできない。あるがままを受け入れ、今を見つめて、 その時自分ができることを一所懸命やるしかない」
と励ました言葉には良寛さんの温かい人間味が感じられます。

この良寛さんの手紙は、恐ら く山田杜皐にとってどんな慰めの言葉よりも救いとなったのではないでしょうか。