良寛の戒語

人と話をするときの心得を戒語という形でまとめたものです。良寛さまの言っていることは、極めて平凡で常識的なことばかりです。ところが、その一つ ひとつを味わってみると、微笑ましく、かたや厳しく私たちに語りかけてくれます。これらの戒語は、他人に向かって発せられたものではなく自らに言い聞かせ たものだったのでしょう。


【植野明磧　画】

一、ことばの多き。
一、はなしの長き。
一、問わずがたり。

一、てがらばなし。
一、じまんばなし。
一、おのが氏素姓の高きを、人に語る。

一、人のもの言いきらぬうちに、もの言う。
一、さしで口。
一、人の話のじゃまをする。

一、ことばのたがう。
一、たやすく約束する。

一、人に物くれぬさきに、何々やろうという。
一、くれてのち、人に語る。

一、よく心得ぬことを、人に教うる。
一、おしはかりのことを、真実になして言う。
一、よくものの講釈をしたがる。

一、憂いある人の傍らに、歌うたう。
一、寝つかぬ人のかたわらに、話する。
一、しめやかなる座にて心なくもの言う。

一、人のかくすことを、あからさまに言う。
一、人の悪しきことを、喜んで言う。
一、口を耳につけてささやく。

一、人のことわりを聞きとらずして、おのがことを言い通す。
一、悪しきと知りながら、言い通す。
一、まけおしみ。
一、さしてもなきことを論ずる。

一、人のことをよく聞かずして答える。
一、へつらうこと。
一、心にもなきことを言う。

一、あなどること。
一、いやしき人を、かろしめる。
一、おろかな人を、あなどる。
一、下僕をつかうに、言葉のあらき。
一、はなであしらう。

一、口をすぼめて、もの言う。
一、顔を見つめて、ものいう。
一、首をねじりて、理屈いう。

一、このんで唐言葉をつかう。
一、田舎者の江戸ことば。
一、都言葉などをおぼえ、したりがおに言う。

一、人のいやがるおどけ。
一、いやしきおどけ。

一、悟りくさき話。
一、学者くさきはなし。
一、茶人くさきはなし。
一、風雅くさきはなし。

一、酒に酔いてことわりいう。
一、酔える人にことわりいう。
一、あくびとともに念仏。

参考：良寛の愛語・戒語　谷川敏朗著　考古堂