【1998年を振り返って〜A Year in the life】
アメリカの資本主義において，Appleの名前はハイテクの世界で今やドラマの同義語となっている。パソコンやGUIを普及させた一流企業が失敗し，数十億ドルの損失を出し，PC市場で次第にシェアを失っていった，大金持ちから貧乏企業への転落のドラマである。
Appleの長期にわたる物語が最後にどういう結末を迎えるにせよ，ストーリーは1998年に明らかに厚みを増した。放蕩息子Steve Jobs氏に率いられたAppleは，余分な贅肉を削ぎ落とし，'95年以来久しぶりに利益を計上し，売れ行きの好調なiMacでコンシューマー市場を奪回した。
その途中，Appleは同社のハードウェアとソフトウェアで，より強力なプロセッサとOS技術に移行し，ほんの1年前にはMac市場を完全に見捨てようとしているかに見えたサードパーティデベロッパーの多くを呼び戻すことに成功した。
1月
'97年には前CEO，Gil Amelio氏が3時間に及ぶ淡々としたプレゼンテーションを行なったが，それとは対照的に動きのあるスピーチを行なったJobs氏は，'98年第1四半期に4,700万ドルの利益を上げ，'95年第4四半期以来の黒字を達成したことを発表して，サンフランシスコのMACWORLD Expoを盛り上げた。Jobs氏は同社の成功の理由としてApple PowerPC G3搭載デスクトップPower Macを挙げた。ExpoではMac OS 8.1も発表された。一方，MacWEEKはAppleがプロフェッショナル市場向けに計画していた6スロットMacのPower Expressラインを中止したことを伝える一方，同社の次世代Rhapsody OSは引き続き開発が行われていることに触れている。
サードパーティのニュースでは，MicrosoftはOffice 98 for MacintoshをリリースしてMacへの貢献を続けることをユーザーに保証し，アップグレードカードベンダーは300MHzのG3アップグレードカードの出荷を始めた。またMacromediaはFreeHand 8を発表し，Adobe SystemsはインタラクティブなPDFフォームを生成するためのAcrobat 3.0のプラグインをリリースした。
2月
Appleは1月下旬から2月初旬にかけて，長年同社の子会社としてソフトウェア開発に当たってきたClarisを解体した際，変化に乗り遅れることなく前進した。FileMaker ProおよびFileMaker Pro Serverのほか，Claris Home PageはFileMaker Inc.に残されたが，AppleはMac OS，ビジネスパッケージClarisWorks，その他いくつかのアプリケーションを取り戻した。
3月
AppleはNewton OSおよび同OSを搭載したMessagePad 2100やeMate 300などのハードの開発を中止したことを発表した。代わって同社は「Macintosh OSの拡張に専念する」とJobs氏は説明した。
この発表を強調するかたちで，MacWEEKはApple PowerBook G3の新しいWall Streetラインについて伝えた。この新製品は当初4月に出荷が予定されていたが，少し遅れて5月に出荷されることになった。その他G3関連では，AppleはGossamerロジックボードデザインを利用したサーバ1組を出荷した。
一方，Macromediaはウェブ用のイメージ編集アプリケーションFireWorksを発表し，AppleとMicrosoftはSpring Internet World 98で団結して，Mac OS用Javaバーチャルマシン開発での協力を約束した。Jobs氏は同月下旬，Seybold Seminars New Yorkで基調講演を行ない，そのなかでColorSync 2.5，300MHz Power Mac G3，スタイリッシュなApple Studio Displayを発表した。
4月
Appleはラスベガスで開催されたNAB (National Association of Broadcasters) で出荷まもないマルチメディアアーキテクチャQuickTime 3.0の機能を披露して，騒ぎを巻き起こした。クロスプラットフォーム対応のアップグレードは35以上のオーディオおよびビデオファイルフォーマット，多数のビルトインビデオエフェクトおよびトランジション，高品質のビデオ，オーディオ，バーチャルリアリティのシーンをインターネットで再生するためのコンプレッサ/デコンプレッサを特徴とする。
Appleは，Artemisというコードネームのずんぐり四角いオールインワンG3システムを出して，教育市場にも力を注いだ (日本では未発売) 。
同月中旬には，同社はふたたびアナリストの予測を上回る業績を上げ，第2四半期に5,500万ドルの利益を計上した。黒字の理由として同社はG3マシンの人気のほか，コスト削減の効果を挙げた。同社の株主年次総会の出席者らは，前任者のAmelio氏やMichael Spindler氏を迎えるよりもはるかに温かくJobs氏を迎えた。
最後に，MacWEEKはコードネームAllegroの名で呼ばれるMac OSの次期メジャーアップグレードに，開発が中止されたCopland OSに当初計画されていたインタフェース拡張の一部が組み込まれることを伝えた。
サードパーティのニュースとして，AdobeはPhotoshop 5.0，MacromediaのFireWorksに対抗するためのImageReady，デスクトップビデオ編集ソフトのPremiereバージョン5.0を発表した。一方，Terran InteractiveはMedia Cleaner 3を発表した。
5月
Appleはカリフォルニア州サンノゼで開かれたApple Worldwide Developers Conferenceで，誰も予期しなかったMacの新しいドラマをスタートさせた。AppleがPerformaラインを打ち切って以来のコンシューマーシステムへの取り組みとなるiMacをJobs氏が発表したのだ。Appleはまた，14.1インチの液晶モニタを備え，292MHzを誇るPowerBook G3のWall Streetシリーズを出して，ノートブックのラインを改めた。
またWWDCでは，AppleはRhapsodyとMac OS戦略を統合して， Mac OS X (テン) という1つの計画にまとめることを発表した。同社は当初のRhapsody計画が頓挫したことを認め，Carbonという新しいAPIセットの助けを借りてRhapsodyの機能を現在のMac OSに統合するよう努力することを明らかにした。
iMacの華やかさとは裏腹に，AppleはMacromediaのビデオ部門をFinal Cutという待望のビデオ編集スイートとともに買収する合意について，口を閉ざし続けた。
Appleは同社と取引のあった全米3,600社のディーラー，小売店，VARのうち3分の1近くとの関係を断った。またWindowsシステムにクライアントとしてアクセスする，ウェブおよびファイルサーバの最新版AppleShare IP 6.0のパブリックベータをリリースした。
6月
AppleはSearchlight Programを発表して未認可のMac販売店を追求した。これは，グレーマーケットで営業する販売店や，Appleの販売網に属さないディーラーにマシンを販売している認可販売店を罰するためのプログラムである。Appleはまた，X WindowでMac OSを走らせるためのMacintosh Application Environmentの開発を中止した。
7月
iMacはニューヨーク初のMACWORLD Expoでいたるところに姿を見せたが，どれも展示用モデルだった。iMacはなんなく展示会場の人気をさらい，iMacの8月15日の発売日が近づくにつれて，Expoで始まった騒ぎは次第に拡がった。一方，MicrosoftはExpo開場でMac版Microsoft Office 98を発表し，Appleとの緊密な関係を示した。だがこの友情は後日，冷酷なライバル関係にある両社の間で強要されたものであることが暴露される。両者の偽りのない感情がかすかに表面化したのは7月中旬のこと，Appleはマルチメディアソフトウェアの将来的な開発についてMicrosoftとの間に「意見の相違」があったことを認めた。
同月中旬，Jobs氏はAppleが3期連続で黒字を計上したことを発表した。見事に1億100万ドルの利益を上げて金融アナリストをうならせ，Appleの株価は急騰した。
8月
記憶の中でおそらく最もすばらしく，また最も忙しかった8月，Appleはボンダイブルーの魅力的なマシンiMacをリリースして注目を集めた。発売前の1週間で15万台を受注し，熱狂した株式市場でApple株は40ドル以上の値をつけ，iMacは8月15日の発売時点ですでに大成功を収めていた。 あちこちで深夜の発売が行われ，長い行列ができ，品不足の不安もあった。だが，iMacの発売はあらゆる判断基準に照らして成功であり，その後の数週間には世界中で同じことが繰り返された。
誰もが幸せだったというわけではない。Appleが長年使ってきたPR会社のNiehaus Ryan WongはiMac発売の2日前，Appleのアカウントを外す決定を下したことを認めた。またサードパーティベンダーでは，SyQuestが1,000人近い従業員をレイオフし，カリフォルニア州フリーモントにある製造工場を閉鎖した。Adobe Systemsはレイオフと経営陣の交替を発表した結果，最大のライバルであるQuarkによる「友好的な」乗っ取りの標的にされた。この一風変わった買収話は即座に，またあっさりと退けられた。
9月
革新的な製品にバグはつきものだ。iMacも例外ではない。モデムやUSBプリンタとの問題が報告された数週間後に，AppleはアップデートしたUSBソフトウェアをウェブサイトに公開せざるをえなかった。だが，バグのせいでiMacの売上げが落ちることはなく，記録の更新は続いた。識者らは，使いやすいデザイン，高速なパフォーマンス，比較的手頃な値段を称賛した。家庭でインターネットに接続するユーザーを念頭に設計されたiMacは，企業や連邦政府の機関からも注目され，大量注文が入るようになった。iMacの新しいUSBコネクタに対応するプリンタ，スキャナ，フロッピードライブなどの周辺機器が少ないことが当初懸念されたが，サードパーティベンダー各社がわれ先に各種USBアダプタや対応製品を発売したことで，心配は即座に消えた。
9月にはプロフェッショナルユーザーにもうれしいニュースがあった。アップグレードベンダーが400MHzのプロセッサを搭載した新しい高速G3アクセラレータの詳細を次々に発表したのだ。
10月
10月中旬，Appleは成功にわいた1年を締めくくるにあたり，四半期で1億600万ドル，通年で3億900万ドルの利益を計上したことを発表した。このすばらしいニュースに続いて，画期的なSherlock検索エンジンやその他の拡張を備えたMac OS 8.5がリリースされ，さらに，6週間で278,000台のiMacが出荷されたことが発表された。
スケジュールが遅れる中で，AppleはMac OS X Server (旧称Rhapsody) の開発は続けられており，年内には出荷すると弁明した。だが出荷はされなかった。一方，英国では，AppleのU.K.支社が，クロスプラットフォームに対応したショーの内容が不服だとして，現地で年に1度開催されるApple Expoへの参加を取りやめた。
11月
iMac販売のペースは落ちるかもしれないと早くから報道される中で，Appleは間近に近づくクリスマスのショッピングシーズンを狙って，コンピュータを対象とする店頭でのローンプログラムを発表した。このプログラムによって，信用のある顧客は販売店の店頭で即座にローンを組める。月々わずか29.99ドルの支払いで新しいiMacが手に入るという売り文句でAppleはマーケティングを展開した。
iMacの騒ぎからは遠い場所で，Appleのソフトウェア開発担当副社長Avadis Tevanian氏はワシントンDCの連邦裁判所に出廷し，連邦政府が起こした包括的な独占禁止法違反の訴訟の中で，AppleとMicrosoftの興味深い関係について説明した。Tevanian氏は，両社はBig Beigeが主張するような「すばらしいパートナー同士」ではなく，Microsoftはコンピュータソフトウェアの世界を自社に都合がよいように分割しようとして，QuickTimeテクノロジーをつぶすよう圧力をかけてきたと語った。AppleはQuickTimeをつぶすことを拒否したが，Tevanian氏が明らかにしたところによれば，18カ月近く前に唐突に発表されたMicrosoftとAppleの提携は，実は企業による苦しい締めつけの好例だということだ。Microsoftが，中でもMac OSでデフォルトブラウザとしてAppleがMicrosoft Internet Explorerを選択することを交換条件に，Microsoft Office 98の開発を続けることに同意し，Macプラットフォームのサポートを続けることを約束したのは明らかだ。
12月
Mac OS 8.5は12月のメンテナンスリリースでバージョン8.5.1にアップデートされた。新バージョンではデータ破壊の問題が修正され，Sherlock検索ツールのバージョンが新しくなった。このバージョンで初めて，Amazon.comなどのショップでSherlockを介したオンラインセールスが成立した場合にAppleが利益を得られるシステムが組み込まれた。
年末が近づいても，マイナーな拡張を行なってRev BとなったiMacは相変わらずヘッドラインをにぎわし，その人気がまぐれではなかったことが証明された。多数のニュースメディアは今年最も重要な新製品としてiMacを挙げ，Appleが新たに手にした成功の原因として至る所でiMacが話題に上った。PC Dataは前月の小売りおよびメールオーダー市場で最も売れたデスクトップマシンとしてiMacを発表し，売上げの停滞を予測した批評家らに明白な答えを示した。事実，PC Dataによれば，iMacの販売は過去3カ月間のAppleの全体的なシェアを2倍に拡大するのに貢献したという。
新しい高速Mac G3をサンフランシスコのMACWORLD Expoで発表することを約束して (Expoでは同時にMac版のみの機能を備えたMicrosoft Internet Explorer 4.5もリリースされる予定) ，Appleはまったく新しいスタイリングのYosemite Mac，1,000ドル以下のiMac，OSの次期バージョンMac OS 8.6，さらにはより高速でより直観的なシステムMac OS Xと，希望ある未来を示して1年を締めくくった。
[Leander Kahney，eMediaweekly/USA]