こんな、新聞記事が出ていた。

「富山県林業試験場は、花粉症の原因となる雄花の花粉ができないスギの育成に成功した。花粉が少ないスギはあるが、全くないものは初めてという。県内の公園や学校などの緑化用として、苗木５００本を２０１１年に供給することを目指す。 花粉症に悩む人にとっては朗報だ。」

このニュースにどのくらいの人が賛同しているのだろうか。花粉症に悩む人にとっては朗報ということだが、自然の摂理に反する行為ではないかと思う。

そもそも、花粉症と言うのは、いつ頃からあったものだろうか。少なくとも、僕の小さい頃にはなかった。そのときの杉の数は、今に比べてけた違いに多かったに違いない。裏の山には、杉山と言って、用材にすることを目的にした杉林がかなりあった。春、その近くに行くと、ものすごい花粉が頭から降り注いだ。それでも、花粉症にはならなかった。杉山は、日本列島改造論が盛んだった、昭和40年から50年にかけて崩されていった。僕の住んでいる金沢区だけを見ても、杉の数は激減しているはずだ。しかし、最近になって、周りで花粉症と言われる症状をうったえる者が増えてきた。僕も、春になると目が痒くて仕方がないことがある。これが、杉花粉の影響と見て良いのだろうか。

ニュースの中で欧米では何年も前に花粉症というものは存在していて、日本ではそれが知られていなかっただけというような表現をしていた。あたかも、花粉症で日本も先進国の仲間入りができたというような物の言い方だ。僕は、車の廃棄ガスの影響が大きいと思っている。庭の柏の木の葉を見ると真っ黒だ。これと同じ空気を僕達も吸っている。主原因は、廃棄ガス、その触媒のような働きを杉の花粉がしていると僕は思っている。自分たちが快適な暮らしをしたしっぺ返しが花粉症と考えている。

今回見つかった花粉が出来ない杉は、人が植林しなければ、子孫を増やすことができない。もし、全てがこの杉に置き換わったら、確かに花粉は出ないだろうが、生態系はどうなるのだろう。杉の実が旨いかどうか知らないが、その実を食べている動物は、きっといるだろう。彼らの生活はどうなるのだろう。人の手を借りれなければ、子孫を増やすことができない家畜のような植物は気持ち悪い。

この花粉が出ない杉の話は、人間が自然を支配できると言う思いあがりだ。自然は、こんなに単純ではないはずだ。人知を超えた自然の営みの中で人間が生きていると言うこと、人間も自然の中の一部であると言うこと、人の力ではどうしようもないことが世の中にはあること、そんなことを忘れているんじゃないだろうか。

そして、この記事はこんな結びになっている。

「材質の確認などの実証試験が必要なため、木材用としての実用化は２０年以上先になるという。」
環境への影響を考えての実証実験を行ってもらいたい。