Microsoft

マイクロソフト物語

【ゲイツの野望】
マイクロソフトは、世界最大のソフトウエアカンパニーである。パソコンを使う限り、そのロゴにお目にかからない日はない。マイクロソフトがなぜソフトウエアの会社かと言うと、ビル・ゲイツにはハードのセンスが全くなかったからという説がある。ゲイツが小さいときに作った機械工作はひどいものだったらしい。そのDNAを受け継ぎ、マイクロソフトが出したハードウエアはことごとく失敗している。ゲームとパソコンを融合させようとしたMSX、家電をパソコンで制御しようとしたAtWork、ソニーのPS2に対抗したゲーム機XBOX、全て失敗である。今でも生き残っているマイクロソフトのハードウエア製品は、マイクロソフトマウスくらいなものである。彼は、ハードウエアでのビジネスを諦めて、指先だけでコンピュータを操れるソフトウエアの世界での成功を目指した。

【マイクロソフトの始まり】
マイクロソフトはインテルの8ビットチップの8080を使った初期の個人向けコンピュータであるアルテアに BASICを移植することから始まった。その移植は実機を使わないでDECのミニコン上で開発したらしい。当時のコンピュータは、今のようなQWERTYキーボードはなく、全面パネルの2進数のトグルスイッチか、１～Fまでしかない16進キーボードでマシン語を打ち込むしかなかった。まだ、パーソナルコンピュータという言葉は無かった。パーソナルと呼ぶにはあまりにも難しすぎた。マシン語はその名の通り、コンピュータの仕組みを理解していないと操作は不可能だった。アキュムレータ、レジスタ、FIFOなど16進数のマシン語の中のビット毎にその動作が組み込まれていた。コンピュータを触るたびに複雑なマシンの動きを考えながら操作するのはゲイツにとっては我慢ならないものだったのだろう。BASICは、そんな仕組みを知らなくても、１＋１と打ち込めば２という答えが返ってくるというものだった。これは、当時のパソコンにとっては、画期的なことだったが、ミニコンや汎用機の世界からはオモチャ扱いされていた。汎用機を扱っているものにとっては、BASICはCOBOLやFORTRANに比べると機能が劣っており、入門者がコンピュータの勉強をするためのものぐらいの位置付けだった。

マイクロソフトのBASICは、1981年当時カセットテープや8インチのフロッピーデイスク一枚で、64KBのメモリがあればそのアプリケーションを動作させることができた。マイクロソフトはパソコンメーカーと手をくみ、BASICをプレインストールしてばらまき、世界中に広めた。代金はハードメーカーが支払い済みであったので当時のBASICは自由にコピーができた。この時すでにBASICは、ハードを隠蔽できるという意味ではオペレーティングシステムであり、テキストエディタでもあった。BASICが普及すると、一般の人にもコンピュータが使えるようになり、ようやくパーソナルコンピュータという名が一般的になった。富士通のFM777、日立のBasicステーション、NECのPC-8801、PC-9801、シャープのMZ-80、タンディのTRS80、コモドールのPET、AppleのAppleIIなど、様々な会社からマイクロソフトのBASICが使えるパソコンが発売され、趣味の世界で花が開いた。

その当時、コンピュータの巨人IBMは、このような小動物の動きを静観していた。パソコンは所詮、子どもの遊びのようなもの、BASICでプログラムを組まなければ何も使えない。しかし、そうこうしているうちに、様々なアプリケーションパッケージで、ひと山当てようというベンチャー企業が市場に参入し始めた。特に、大学でMBAを取得した学性が作ったビジカルクという表計算ソフトはAppleIIにバンドルされ大ヒットした。AppleIIは、プログラムを組まなくても、買って来て電源を入れればすぐに使える今のパソコンの原型を作り上げた。AppleIIが爆発的に売れ始めると、IBMのテリトリーである企業内の情報処理分野に食い込み始めた。そこで、IBMがようやく重い腰を上げた。AppleはそのIBMの参入に対して、ようこそという広告を出した。IBMは、今までハードからソフトまで全てを自社開発するというポリシーを持っていたが、コスト面でAppleなどの新興勢力のパソコンメーカーに太刀打ちできなかった。また、出遅れた時間を取り戻す必要もあった。そこで、出来るだけ外部のリソースを活用し、技術を開放してサードベンダが自由に周辺機器やアプリケーションを開発できるオープンアーキテクチャを採用した。この戦略は、Appleの模倣だった。

【MS-DOSの開発】
IBMは8ビットのハード・ソフト資産を活かすため、インテルの8088という8bitから16bitへの移行期のマイクロプロセツサを採用した。最終的には16ビットで勝負をするという戦略をとった。技術をオープンにしたことでコンパックなどの互換機メーカーが現れた。そのハードウエアプラットフォームを使って、数多くのベンチヤービジネスがアプリケーションの商品化に挑戦した。IBMは8ビットの世界で、すでに標準的なOSであったCP/Mを開発したゲリー・キルドールに新しいOSの開発を依頼した。しかし、キルドールが自家用飛行機で空の散歩を楽しんでいるうちにパートナーが交渉を断ってしまった。IBMはしかたなく、BASICを8ビットのインテルチップにポーティングしただけのゲイツにOSの開発を頼んだ。 OSについての知識も経験もないゲイツは、CP／Mを真似て8086用につくったOSをワシントンにあった小さなソフトハウスから二足三文で買い取り白分の商品として売り込んだ。そのOSはCP/Mにそっくりだった。COPYコマンドなどは、BからAという記述をAからBに書き換えたという程度の物だった。CP／Mが生み出した市場の未来を横取りしたのは、ゲイツであり、キルドールは運を逃した。CP／Mを模倣して作ったOSがMS-DOSであった。特許もなく、表面上の著作権さえ侵害しなければ、似たようなものはいくらでもつくれる。そんな世界で、如何に他人の褌で相撲をとるかということを学んだ。そんな輩は当時、ゲイツだけではなかったが、ゲイツは他人の技術を盗む才能にかけては天才的だった。

【MacintoshのGUI】
MS-DOSのインターフェースはCP/Mがそうだったように、DECのOSの模倣だった。黒い画面からキーボードでコマンドを打ち込んでいくという文字ベースのOSだった。コマンドを覚えていないと何も出来ない。いかに自然言語に近いと言っても習得までにはかなりの時間がかかった。一方、AppleIIで大儲けをしたAppleはAppleIIIの大失敗を経て、Macintoshで新しいコンピューティングスタイルを確立した。キーボードの他にマウスというかわいらしいポインティングデバイスがついていた。画面は、MS-DOSとは逆に白い紙に黒インクで文字を書くようなデザインだった。Macintoshを立ち上げると、画面にアイコンと呼ばれる小さなフロッピーやハードディスクの形をした絵が表示される。画面の中央付近には、ポインタと呼ばれる矢印がある。マウスを動かすと動きに沿って矢印も動く様になっている。ハードディスクの絵の上に矢印を持っていってマウスのボタンをカチカチとクリックするとハードディスクが開いて中身が見える様になっている。同じようにして開いていくと最後に書類の形をした絵が現れ、それをマウスでクリックするとワープロなどのアプリケーションがたち上がる。

あたかも、机の引きだしを開けて書類を広げるような操作方法で、コマンドを覚えている必要は全く無かった。このパソコン上に構築された環境をデスクトップと言い、MS-DOSの様な今までのキャラクタベースのもの対して、グラフィカル・ユーザ・インターフェース、GUIと呼ばれた。GUIを搭載したコンピュータは、パロアルトリサーチセンターでアラン・ケイたちが開発したアルトを起源としてゼロックスがスターと言う名前で商品化していたが、価格的に個人が使えるものではなかった。

ゲイツもMacintoshを見て相当驚いたらしい。操作性の良さとOSとしての完成度の高さからだ。ジョブズは、AppleIIの市場とバッティングしないように、Macintoshを企業に売りこみたかった。そのためには、表計算が必須のソフトだった。MS-DOSの世界では、ロータス１・２・３がその分野でかなり幅を利かせていた。ジョブズは新しいマシンのキラーアプリの開発をロータスに頼んだ。しかし、ロータスからは、いつまでたっても製品は出荷されなかった。ジョブズは、親交のあったゲイツに話を持っていった。ゲイツは一つ返事で開発に着手した。このソフトが今のMaicroSoft　 Officeの一つのExcelである。このソフトの開発を通してグラフィクスインターフェースの基本を学んだ。このときからゲイツの頭には、いつかは、こんなOSを作りたいという思いが募っていった。

ゲイツが最初に作ったWindowsは全く使いものにならなかった。ごみ箱もなかったし、ウインドウを重ね合わせることも出来なかった。しかし、巧みにMacintoshのインターフェースを模倣することによりMacintoshに近い物になってきた。Appleとの著作権裁判に勝利すると、その開発に拍車がかかった。Windows９５でほとんどMacintoshと同じ操作ができるようになった。Windowsの画面構成をみると、ハードディスクやごみ箱がMacintoshとは反対の左側になっている。スタートボタンは、下になっている。これは、Macintoshに似ないようにあえて配置を変えているのだ。Windowsには画面通り、印刷できる機能や、色の再現性、ウインドウを開くときのアニメーションやマウスの速度制御などの細かい機能は、未だに搭載されていない。似て非なるものが出来あがった。しかし、ビジネス的には大成功をおさめた。

【ノベルのネットワークOS】
MS-DOS、そして初期のWindowsのネットワーク機能は貧弱なものだった。数人のグループでファイルやプリンタを共有する程度のものしか搭載していなかった。ここに目をつけたのが、ソルトレークシティにあるノベルという会社である。NetWareという製品は、このMS-DOSを補完する形でベストセラーになった。日本でも今はYahooBBで有名な孫さんのソフトバンクがディストリビューションを始めた。マイクロソフトは、この機能を取りこむことに躍起になった。WindowsNT（New　Technology）という新しいOSには、 NetWareの機能がほとんど含まれていた。当時のマイクロソフトの拡販資料を見ると、NetWareの一つ一つの機能を列記して、それが最初からOS にバンドルされているということが書かれていた。WindowsNTがサーバOSとして普及するとNetWareを買う人はいなくなった。ノベルも自分達の作った市場をゲイツに持って行かれてしまった。

【ネットスケープのブラウザ】
Windows９５フィーバーというのがあった。ニュースステーションでも取り上げたくらいで、一つの社会現象になっていた。その騒動が収まらないうちに、ネットワークの世界で革命的なことが起こっていた。今まで、ネットワーク、特にインターネットの世界は、技術者やパソコンオタク同士が電子メールを送りあうくらいしか使われていなかった。キャラクタベースのMS-DOSの延長線上のものだった。グラフィカルなデータをやり取りをしようとすると同じ種類のパソコン同士でないとうまく行かなかった。そんな折、異なるコンピュータ同士をつなげるために欧州の高エネルギー研究所でWWW（World　Ｗｉｄｅ　Ｗｅｂ）というサーバが開発された。このサーバは文字だけでなく、写真や音楽などのマルチメディアデータが扱えるデータベースを持っていた。このサーバにアクセスできるクライアントソフトをWebブラウザと言い、このソフトを米国のNCSAに通っていたマーク・アンドリーセンという一人の学生が作り上げた。これをMOSAICと言った。私も、このソフトが出てきたとき、いったい何だかわからなかった。しかし、MacintoshにインストールされたMOSAICの画面から遠く離れた異国の色鮮やかなページが出てきたときは感動した。と同時に、これはとてつもないものだという印象を受けた。アンドリーセンは、シリコングラフィクスという高速なグラフィクスエンジンを積んだワークステーションを開発したジム・クラークと組んでネットスケープコミュニケーションという会社を興した。この会社が出したネットスケープナビゲータは、ものすごい勢いで普及していった。それと共にインターネットを楽しむ人達が指数関数的に増えていった。未来はインターネットにあるという感じだった。

マイクロソフトは、インターネットには大きく乗り遅れていた。Netscapeが出てきたときには、まだ、マイクロソフトネットワーク、MSNは、パソコン通信の域を出ていなかった。しかし、ゲイツは、ネットスケープが躍進し、NetscapeNavigatorがWebベースのソフトウエアのアプリケーションプラットフォームになることを知ると、Windowsの危機を感じた。Webブラウザさえ動けばOSはMacintoshでもWindows でも関係がなかった。すぐにゲイツは、社員全員にインターネットの重要性を説くメールを出した。それから急ピッチでマイクロソフト制のWebブラウザの開発が始まった。そのソフトがInternetExplorerだった。MOSAICはら派生したスパイグラスという会社が開発したブラウザをソース毎買い取りそこに新しい機能をつけた。ネットスケープが波に乗り始めていたときに、Netwareの時と同じように、OSにバンドルするという発表をした。IE はタダになったのだ。そして、OSとブラウザを融合して切り離せない物にしてしまった。お金を出してNetscapeNavigatorを買う人は減っていった。そして、ネットスケープは、会社をプロバイダーのAOLに身売りした。NetscapeNavigatorはオープンソースになりビジネスの第一戦から姿を消した。

【Linuxとの戦い】
マイクロソフトやネットスケープが競い合っていた頃、インターネットを使ってたった一人で全く新しいパラダイムを作り始めた男がいた。ライナス・トーバルスというフィンランドの青年だ。彼は、趣味でUNIXに似たOSを作り始めた。最初は、本当に小さなコアの部分だけを作っていたが、それをインターネットに流すと、大きな反響が来た。そのソースを使って新しい機能を追加する草の根プログラマーが沢山いることがわかった。草の根プログラマーと言っても、職業はプロのプログラマーで趣味でトーバルスのUNIXに手を加えているという人達だった。トーバルスは、自分の名前をもじってLinuxと名づけた。そして、一つのコミュニティを形成していった。古くなって捨てられたパソコンにLinuxをインストールすると快調に動いた。Windowsに比べて少ないメモリと貧弱なCPUで動いた。Linuxを開発している人達はインターネットを議論の場にして改良に改良を重ねていった。

UNIXの世界には、もう一人カリスマがいる。大学のコンピュータルームに住みついているという噂があるストールマンという男だ。彼は、コンピュータとソフトウエアをこよなく愛する本物のハッカーで、ソフトウエアはフリーにすべきだという主張をずっと言い続けている。彼のフリーの意味は、無料という意味と、コピーを自由にさせるという意味が含まれている。ソフトウエアでぼろ儲けをしているゲイツとは対極的な人物だ。彼は、コピーライトに対抗してコピーレフトを唱えている。このマークが入っていたらコピーが自由ですよ、という意味だ。Linuxはこのストールマンが始めたGNUプロジェクトに合流した。GNUは、GNU　ｉｓ　ＮＯＴ　ＵＮＩＸの頭文字をとったもので、Linuxと同じように十年以上も前からUNIXの部品を開発しており、莫大なソースコードを所有していた。GNUのコマンドやツールがLinuxで動くようになると一気にLinuxは完成度を上げていった。今では、商用の RedHatやTurboなどのLinuxがパッケージされて店頭に並んでいる。Linuxは非常に軽いと言うことと、世界中の何百万人というプログラマが目を光らせてソースのチェックを行っているのでバグが少ない。特にインターネットサーバとしては、安定しているしコストが安い。一般企業でも、自治体、大学どこでもサーバのLinux化が進んでいる。

マイクロソフト製品の中で最大の収入源はMicrosoftOfficeである。その中身の主要構成製品はMicrosoft Word、Microsoft Exel、PowerPointそしてMicrosoft Accessである。ワープロ、スプレツドシート、プレゼンテーション、グラフィクス、データベースを行う独立したソフトウェアをパッケージに入れてシュリンクラップ包装されて店頭に並んでいる。最近、このMicrosoftOfficeと互換性のあるソフトがオープンソースで出てきた。 OpenOfficeというもので、ソースが公開されていて無料である。全てのWindows、Linuxで動く。この製品版をサンマイクロシステムズが StarOffice（日本では商標登録の関係でStarSuite）として製品化している。価格は、MicrosoftOfficeの約５分の１である。マイクロソフトは、このようなLinux陣営の躍進に対して、今のところ打つ手がない。オープンソースはタダなので、マイクロソフトの常套手段であるライバルと同じソフトをタダにするという戦術が使えない。Linuxは、これからコンピュータが普及していこうとしている発展途上国にドンドン普及している。このままLinuxに市場を侵略され続けていくのか、次の一手があるのか、ゲイツの泥棒人生もここで運が尽きたのか、それは、数年先には明かになることだろう。