【大道の自然】　戻る↑

大道を縦断するように流れる侍従川が大道の自然に彩りを与えている。

（大道の四季）広瀬一雄

１）春

雪が溶けて田の面に張った氷も消えて田んぼに水たまりが出来るころになるとオタマジャクシが泳ぎはじめる。明堂（みょうど）の吉野桜が満開になって当たり一面花吹雪になる。竹藪ではウグイスがなき田んぼの土手にはツクシが顔をだしタンポポの花でうまる。春日面（かすがめん）のネコヤナギも白金色の芽を吹きはじめる。

２）夏

五月そろそろ水もぬるまって農作業が始まる。稲の苗も大きくなって子供たちは苗間に入りズイ虫（害虫）を取る。六月中旬の夜になると夏祭りの太鼓の練習をする音が聞こえてくる。この頃からそろそろ田植えが始まる。

七月十四日は瀬戸神社の夏祭りである。瀬戸、六浦、川、三艘の順に屋台が並んで各村中を繰り歩く。大道へは丁度昼頃に到着する。夜になると小川や田んぼの畦道でホタルが飛び交いホタルを呼ぶ子供の声が聞こえてくる。「ホ−ホ−ホ−タル来い。あっちの水はニ−ガイゾ、こっちの水はア−マイゾ、ホ−ホ−ホ−タル来い。」

八月の暑い昼下がり大池の栓が抜かれる。池の中にはコイ、フナ、ドジョウ、エビなどが沢山いて子どもたちも大人も夢中で魚取りに興じる。帰り道、大堰（おおぜき）で泳ぐ。夕方から鼻欠地蔵の前の広場に集まって田圃に水引をする。

かくらの谷戸の蓮田では蓮の実がうれて、子どもたちは蓮の実取りに夢中になる。八月十五日はお盆の中日で夕方から松明に火をつけて虫送りの行事が行われる。

３）秋

田圃一面が黄金色に染まる頃になるとそろそろ稲刈りが始まる。伊賀山の周辺の土手では彼岸花が満開となって丁度赤の絨毯を敷き詰めたようになる。山ではモズの鳴き声がする。この頃になると栗拾いが始まる。堂山から登ってお富士山を廻り、かや場あたりまで行く。小粒だが味はよい。

十月一日は山王様のお祭りである。昔はノボリを立てて参道に灯篭を建て鳥居の前に寿司屋（牛寿司）が出て参拝する人をもてなしたと村の長老から伺った。

十一月二十三日は収穫祭である。大道の田圃でとれた米は大変良質でいつも一等米であったと聞いている。

４）冬

毎年、雪は三十センチぐらい積もる。雪が降るとパッチンを作ってホオジロ、アオジなどをとって遊ぶ。お正月には新しい服や靴を買ってもらい凧上げ、羽根つき、双六などに興じる。

一月十四日の朝はドンド焼きの日である。前の日に集めた門松や書き初めを積み上げ燃やして餅を焼き、これを食べて無病息災を祈った。一月十五日頃になると、かや刈りが始める。この行事は村中の人が総出で行い大鳥居の谷戸から行く人や堂山から登って行く人もいる。この刈った茅は田圃の隅に積んでおいて三月頃、屋根の葺き替えに使われる。この作業は村中の人が出て行う。朝のうちはみんなの顔が良く分かるが午後になると顔は煤で真っ黒になり誰が誰だか分からなくなる。

夕方、屋根屋さんが刈り終わった屋根は実にきれいで女の人が髪結いに行った時のようで美しいものである。この行事が終わる頃になると山の木の芽もふくらんで四季は終わる。

【大道の山野に育つ樹木と野草】

常緑樹

すぎ 建築材・薪

まつ 建築材・薪、炭

ひのき 建築材

さわら 建築材・おけ材

ひば 建築材

かや 建築材・碁盤

としょう（ねずみさし） 建築材・床柱

しんぱく（びゃくしん） 建築材・床柱

しい 薪

かし くわの柄・舟材

おおき 薪

もち 薪

つばき 観賞用

ひいらぎ 観賞用

つげ いけ垣

さかき 神事

しきび 仏事

しゅろ ひも材料（なわ）

やつで 観賞用

くす 家具材

もみ 建築材　

孟宗竹 食用・細工用

真竹 食用・篭材

は竹 食用・篭材

ほてい竹 装飾用

大名竹 細工用

矢竹 弓矢用

ねそ竹（しこ竹） 細工用

落葉樹

なら 薪・炭

くぬぎ 薪・炭

かえで 建築材・床柱

さくら 薪・炭・装飾用

いちょう 台所用まな板材

けやき 建築材

くり 建築材

えのき

えご

やなぎ

さんしょう 食用・すりこぎ材

うめ 食用・観賞用

はんのき

くろもじ ようじ

みつまた 紙材料

こうぞ 紙材料

くわ 養蚕

にがき 細工材

きり 下駄材

ねむ

くさぎ

うるし 漆器材

はぜ 観賞用

たら 食用

うつぎ

ぎぼし（づいでんぼう）

にしきぎ 観賞用

がまづみ（よとどめ）

またたび 食用・観賞用

ぐみ 食用

山ぶどう（かないび） 食用

あけび 食用・細工

くず 根は食用

つるうめもどき 観賞用

木いちご 食用

うの花

山野草

たんぽぽ 食用

つくし 食用

よもぎ 食用・漢方薬

はこべ

なずな

ははこぐさ

よめな

すみれ 観賞用

おおばこ

かんぞう 観賞用

ふき 食用

せり 食用

みつば 食用

あざみ 観賞用・食用

わらび 食用

ぜんまい 食用

うど 食用

のびる 食用

ゆり 観賞用・食用

えびね 観賞用

しゅんらん 観賞用

しらん 観賞用

きんらん 観賞用

ぎんらん 観賞用

やぶらん

おみなえし 観賞用

かや（すすき）

くろうば

ひがんばな（まんじゅしゃげ）

りゅうのひげ

ひどめ（やまぼけ）

れんげ

いたどり 食用

くこ 漢方薬

どくだみ 漢方薬

げんのしょうこ 漢方薬

がま

山いも（じねんじょう） 食用

ほとどぎす 観賞用

はぎ

まこも

やまぶき

むらさきしきぶ

からすうり

すいかずら

へくそかずら

なんばんぎせる

きらんそう

たつなみそう

ていかずら

われもこう

ゆきのした

みずしき

しやが

つるぼ

ぎぶし

【清流侍従川】

１）侍従川の思い出

朝比奈峠を水源として、大道を縦断し川、三艘を通り平潟湾に注ぐ清流が侍従川である。その昔、照手姫の乳母侍従が盗賊に追われた姫の跡を求めてきたが、姫がこの川に身を投じたと聞き、悲しみのあまり自ら身を投じて死んだという逸話から名を侍従川と付けたという伝説がある。

侍従川は水が清く絶えたことがなく、お陰で大道は大変豊かな村であった。現在は大道中学校のバス停に近くの岩に彫られた風化したお地蔵さんは鼻欠地蔵と言い、相州（今の鎌倉）と武州（金沢）の境に肥えた土地争いの仲裁役として建立されたが、争いがなかなか絶えないのでお地蔵さんが見せしめに、自ら立派な鼻を欠いてしまったと言い伝えられている。

この川はうねうねと曲がりくねり、自然の水の流れそのままの姿をしており、両側は大名竹が生い茂り遠くからでも一目で川であることがわかる。

川間のネコ柳が白銀色の芽を吹く頃になると侍従川にも春がくる。川の土手にはツクシ、タンポポ、スミレ、レンゲ、ナズナなど色々な野草でおおわれる。川岸の竹薮ではウグイスが鳴き、セキレイ、カワセミ、カワラヒワ、アオジが飛び交い麦畑ではヒバリが鳴く。

六月になると田圃に水を入れるため大堰が作られる。この頃から川の水が減って子どもたちの川遊びの時期になる。大堰の下の水たまりにはエビ、フナ、ハヤが沢山いて子どもたちはわれ先に網でとる。

川の下流ではかい堀りが始まる。これは水をせき止めて中の水をかい出して魚を捕る方法でウナギ、ドジョウがよくとれる。七月七夕がすぎ夏祭りが近づく頃夜、川岸でホタル取りが始まる。夜露で足がびっしょりになる。

八月末頃、大池の水が抜かれる。池の中にはコイ、ウナギがいっぱいいて大人も子どもも夢中になって捕る。これは一年に一度の楽しみな年中行事である。秋になって水が不要になると大堰が開けられ放水する。水の少なくなった川ではウナギ釣りが行われる。

十月頃、大潮になると諏訪の橋の上でハゼ釣りが行われる。10センチくらいのハゼがよく釣れる。このハゼは竹串に刺して焼き、お正月の昆布巻用として保存する。チンチンカエズ（黒鯛の子）や白魚も海から上がってくる。秋も深まり稲刈りも終わる頃雑木林に北風が吹き抜ける頃、川岸には霜柱が立ち川面は薄氷におおわれて侍従川も冬支度に入る。

２）歴史と侍従川

昭和八年日本は国際連盟を脱退して孤立の状態となった。そして、昭和十二年廬溝橋事件が起こり日中戦争へと突入した。世界の情勢は日を追って悪化していった。侍従川もそろそろこの頃から汚染が始まった。昭和十六年十二月八日ついに第２次世界大戦が始まった。人の心もすさび、侍従川の汚染を気にする暇もなく過ぎていった。

昭和二十年八月十五日戦争は終わった。ふと気がつくと侍従川は、死の川に変わっていた。魚影はなくただ異臭が漂っていた。人々は食料難に喘いでいた。

平成になって世の中も平和を取り戻した。上下水道が完備され、日を増す毎に侍従川はきれいになってきた。現在は魚類も増え、「アユ」が数十年ぶりに戻ったわけである。カワニナも増えやがて蛍の飛び交う日もそう遠くはないと思う。そして、子供たちの川遊びの出来る日を心待ちにしている。

【侍従川近辺に住む魚、鳥、虫類】

「魚」

ふな、かわりぶな（川たなご）、川エビ、くるまえび、はや、どじょう、うなぎ、川はぜ、だぼはぜ、めだか

「かに」

もくずがに（けがに）、しみずがに、べんけいがに

「貝」

しじみ、川はまぐり、たにし

「かえる」

とのさまがえる、ひきがえる、あおがえる、あかがえる、いぼがえる

「へび」

あおだいしょう、まむし、しまへび、じもぐり、やまかがし（べんてんさま）

「鳥」

かわせみ、あおじ、せきれい、かわらひわ、ほおじろ、ひよどり、かけす、ちょうま、めじろ、しじゅうから、もず、みそさざい、うぐいす、山鳩、ふくろう（みみずく）、こおもり

「動物」

山うさぎ、たぬき、いたち、かめ、いもり、かわうそ

「昆虫」

みんみんぜみ、ひぐらし、じ−じ−ぜみ、あぶらぜみ

やんまとんぼ、どろぼうとんぼ、赤とんぼ、かわすみとんぼ、しおからとんぼ、かすみとんぼ

げんじぼたる、へいけぼたる

かぶとむし、くわがた、こがねむし、かみきり、ばった、かまきり、きりぎりす、がしゃがしゃ、すいっちょ、みずすまし、げんごろう、かっぱ、こうろぎ、ちょうちょ