一、人間の寿命は百歳をもって上限とする。上寿は百歳、中寿は八十歳、下寿は六十歳とする。
一、人生の三楽とは、道を行い善を楽しみ、健康で気持ちよく楽しみ、長生きして楽しむことである。
一、たえず養生の道に従って欲を自制して楽しみを失ってはならない。これは養生の根本である。
一、心はたえずゆったりとして静かでせかせかしないで平穏であるがよい。
一、毎日少しずつ体を動かして運動するのがよい。運動すれば痛い思いをせず楽にして健康を保てる。
一、風・寒・暑・湿の外邪を防がないのは怠慢であり、飲食・好色の内欲を抑えないのは過失である。
一、食事は腹八分目がよくて、腹いっぱい食べてはいけない。
一、食後の一所に長く安座してはいけない。気血がとどこおり飲食物が消化しにくくなるからである。
一、怒った後ですぐに食事をしてはいけない。また、食事のあとで怒ってはいけない。
一、労働してひどく疲れた時にはすぐに食べてはいけない。疲労が取れてから食べるのがよい。
一、すべての食事はあっさりした薄味のものを好み、味濃く脂っこいものを多く食べてはいけない。
一、五味（甘、辛、塩、苦、酸）のものを食べ過ぎてはいけない。五味偏勝は避けるべきである。
一、清新な物、香のよい物、柔らかい物、味のかるい物、性の良い物、これらを好んで食べるが良い。
一、肉類は多くを食べて胃腸を損ねるより少しを食べて身体に害のないようにするがよい。
一、大根は野菜の中でもっとも上等なものである。常に食べるが良い。
一、空腹時に生の果物や菓子などを食べてはいけない。
一、水は清らかで甘いものを好むべきである。清くなく味の悪い水は使ってはならない。
一、湯は熱いのを冷まして程よき温度で飲むのがよい。
一、酒は天から与えられた美禄だが各人に適量があり、程よく飲めば益が多く多飲すれば損失が多い。
一、およそ酒は夏冬ともに冷酒でも熱すぎても良くない。程よく温かい酒を飲むのが良い。
一、酒は無闇にすすめず、また遠慮しないで程よく酔って喜びを合わせて共に楽しむことが最も良い。
正徳三年 正月吉日 八十四翁 貝原益軒