【今どきの子供たち】 もう夏が終わろうとしている８月の末になってようやく天気が回復した。今日は海の公園で花火大会がある。実家から歩いてすぐの漁港で花火を見るのを子供たちは楽しみにしている。 まだまだ、日が高い。一歳になった息子が家の中の暑さに耐えられずにぐずり出した。外に出て少し風に当たってこようと思った。天車をして公園に行った。炎天下の公園は静かだった。藤棚で日陰になったテーブルで３人の男の子がたむろして何かやっていた。 「何をやってるの？」 「これは、カードだよ。ポケモンカードって言うんだ。ジャスコとかで３０枚入りで５６０円で売っているよ。ダイエーのおもちゃ売り場に行くと、コインとセットで９８０円くらいでお買い得なんだ。おじさん、欲しかったら、２、３枚やろうか？」 「いらないよ。こんなに良い天気なのに、カードなんかで遊んでいるから聞いてみただけさ。今は、こんなカードが流行っているの？」 「そうだね。今の流行りはポケモンカードだね。」 任天堂が出しているカードだった。子供相手に、うまい商売をやっているんだなと感心した。 「ふーん。ゲームは、やらないの？」 「やるけど、最近ゲームは少し元気がないね。X‐BOXは、新しいソフトが出ないんで、みんなDVDプレーヤーにしているし、スーパーファミコンは製造中止だしね。家でやるんだったらゲームキューブかプレステ、外ではゲームボーイアドバンスかな。」 なかなか、面白い子だな、と思った。 「君たち、何年生？」 「僕とこいつが六年生。かれが五年生だよ。この先の並木第四小学校だよ。」 「おじさんが小さいころは、夏休みには、セミとかカブトムシとかを捕まえたもんだよ。君たちは、虫取りなんかやらないの？」 「この辺は、子供の遊ぶ場所がどんどんなくなっているんだよ。この公園だって、取り壊されていつ家が建つか分かったものじゃないからね。」 「そうだね。昔は、子供が遊べる原っぱや川や山が沢山あったなぁ。原っぱにはとんぼやバッタ、カエルなんかがたくさんいたんだ。お金なんか無くて も、虫取り網があれば随分楽しめたものだよ。網が無いときは、針金をこんなにふうに丸くして竹の先に付けるんだ。そこに蜘蛛の巣をくるくると巻きつける。 これでよくセミが取れたんだよ。」 「僕も、この前、長野のおばあちゃんのうちに行ったら、周りは山だらけでゲームセンターも何もなかったけど、楽しかったな。カブトムシとかをいっぱ い取ったよ。この辺は、山をみんな崩しちゃうんだ。あそこの山も木がみんな抜かれてしまってるだろう。もうすぐ崩すんじゃないのかな。遊び場がどんどん無 くなっていくんだよ。」 「でも、お小遣いはたくさん貰うんだろう？」 「ゲームセンターとかに行くとすぐに終わっちゃうよ。」 「そう、そう。面白い話があるんだ。隣のクラスの子なんだけど、小遣いをもらって何に使ったと思う？そのお金で友達を誘って焼肉を食べに行ったって いうんだ。これじゃ大人と同じだよ。なんか、情けなくなっちゃった。そんでもって、その後に健康ランドに休みに行ったというから参っちゃうね。」 「なんか、子供らしくないなぁ。」 「でもね。子供をこんなにしたのは、大人のせいだよ。家でゲームやっていると、お父さんは外で遊んでこいというけれど、お金がないと遊ぶところがな いんだよ。公園なんかもボール遊びを禁止しているところが多いし、道路は車で危ないし。ゲームやカードがそんなに面白いというわけじゃないんだけど、他に やることが無いだけなんだ。こんなにしたのは大人じゃん。」 そういうことだったのか、と大人の一人として責任を感じた。そして、今の子供たちが可愛そうになった。 「こんな話を聞いてくれる大人って珍しいよ。みんな、相手にしてくれないよ。総理大臣にでも誰にでも話してよ。そして、もっと遊べる町にしてよ。」 そう、言い残して子供たちは帰っていった。 天車をしている息子の顔を見たらにニコニコして小さな手でバイバイをしていた。 桜の木の下で２〜３羽のスズメが、楽しそうに、じゃれて飛んでいた。 ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ 【解説】 確かに、どこへ行っても日本の町はきれいだ。貧しい東南アジアやアフリカの国々に比べると町は整然としているし、危険なものも少ない。しかし、子供たちが目の輝きを失ったと言われて久しい。この豊かな国に住む子供たちは、本当に幸せなのだろうか。 山が崩され、森がなくなり宅地になった。防火用水や溜め池は、危ない、必要ないと言う理由で埋め立てられた。原っぱはバラ線が張られて中には入れな いようになった。子供たちにとって不思議で楽しい遊び場は、大人たちの一方的な理由でほとんど姿を消してしまった。子供たちの好奇心を満たす場所が町の中 にはなくなった。 子供たちは、その好奇心を満たすために、ゲームセンターに逃げ込んだ。休みの日にはディズニーランドのようなテーマパークに行く。携帯電話でおしゃ べりをする。しかし、その遊びの仕掛けは、大人たちが作ったもの。大人の金儲けのサイクルに組み込まれたもの。スイッチを切った時点で退屈な現実に戻る バーチャルなもの。お金が尽きれば遊びも終わる。 子供たちに、どんな夢があるのだろうか。 |