【ちはるの話】
ようやく会えたね。予定日より2週間も早く生まれたのに、ずいぶん待った感じがする。でも、君の誕生の瞬間に立ち会えて本当に良かった。明日から海外出張なのでそれまでに生まれたらいいな、とお母さんと話していたんだ。その願いがお腹の中の君にも伝わったのかな。
君は生まれてすぐに大きな声で泣いてたね。手当たり次第にしがみついたり、足をバタバタさせたり、しゃっくりをしたり、こんな暴れん坊がお腹の中にいたのかと思うとお母さん、大変だったね。
寒いのかな？くしゃみをしてるね。電球の光がまぶしいのかな？薄目を明けてるね。お腹が空いたの？指をしゃぶっているね。お母さんのお腹の中に比べ たら居心地が悪いかも知れないけれど、これでも病院の中は暖かいんだよ。外は冷たい雨が降って寒いんだよ。これから君はもっと厳しい現実の世界に直面する ことになる。でもその先には大きな希望と明るい未来が待ち受けていることも確かなことなんだ。
長く厳しい冬の後に、大地から若々しい草花が芽吹く春、そんな一年で最も希望に満ちた季節に君は生まれた。ちはるという名前には、若葉のようにすくすく育って欲しいというお父さんとお母さんの小さな願いが込められている。
