伊勢崎町の有隣堂の店先でクリスマスイブの前日にピクサーのビデオを衝動買いしてしまった。トイス トーリ、トイストーリ２、バグズライフ、ファインディング・ニモ。家人に内緒でそっと子どもたちのクリスマスプレゼントにしのびこませた。本命とは別の頼 んでもいないプレゼントをサンタさんが突然持ってきたので、みんな不思議がっていた。年末の休みの間に子どもたちとたっぷりピクサーの世界を堪能できた。

ピクサーは、アップルの創立者のスティーブ・ジョブズが成功させたもう一つの会社として有名である。 ホームページによると、設立は1986年と意外に古い。最初のMacintoshの発表が1984年なので、それから2年後に作った会社だ。ジョブズは、 あるインタビューに答えて、「今はコンピュータよりアニメーションの分野に興味を持っている。何十年か経って、WindowsやMacintoshのこと は忘れても、子供たちはミッキーマウスのことは決して忘れないだろう。私は、そんなキャラクターをピクサーという会社で作っていきたい」と語っている。

Macにはクイックタイムというアニメーションのためのアプリケーションが用意されていた。クイック タイムの開発キットのＣＤには30秒から数分のMacで作ったアニメーションの習作のようなものがたくさん入っていた。今から考えるとトイストーリの雰囲 気をどこかに持っていた。ジョブズは、この頃からコンピュータアニメーションの分野に興味を持っていたのではないかと思う。

画期的なコンピュータ・グラフィックス技術を映画製作に利用し、この分野で革新的な技術を次々と実現 させたピクサーは、今までのアニメーションの概念を根底から塗り替えてしまった。手法も製作過程も全く違うその自然な画面は、まるで実写のような錯覚を覚 える。子どもたちは、コンピュータを使って作りだされた映像とは知らずに画面にくぎ付けになる。部屋に舞うホコリ、ひらひらと落ちる枯れ葉、木の葉をゆす る風、波、雨という自然現象も数式を使って計算し巧みに表現されている。そのアニメーションはライブラリー化されていて過去の作品のシーンが繰り返し使わ れている。これは、コンピュータアニメーションならではの利点だ。この技法を使えば映像表現に不可能はない。主人公が空を飛ぼうが海にもぐろうが自由自 在、スタントマンなしですべてまかなえる。高いギャラもいらない。ジョブズが考えた最高のコンピュータアプリケーションがここにある。

【トイストーリ】　1995年作品
カウボーイ人形のウッディは、アンディの大親友。しかし、最新型ロボットのバズ・ライトイヤーがやってきて、アンディの心を奪っていく。最後はウッディと バズの友情の結集というハッピーエンドで終わる。オモチャに生命を吹きこんで、そのキャラクターを確立させた最初の作品として注目される。オモチャの目線 で世のなかを見る新鮮さや、コンピュータグラフィクスでここまで出来ると言う技術のアピールが随所に見られる。童謡「おもちゃのチャチャチャ」の世界をア ニメにしたような作品。

【バグズライフ】　1999年作品
主人公は働きアリのフリック。アッタ姫の妹ドット以外に誰も認めてくれないアイデア マンの彼は、そのアイデアのためにバッタへの貢ぎ物を台無しにしてしまう。怒ったバッタのボス、ホッパーは、アリたちにさらなる重労働を強いる。責任を感 じたフリックは、街でサーカスの一団をヒーローと勘違いしてスカウト、彼らもサーカスの仕事と勘違いして引き受けることになる。CG技術や虫たちの生態の 細かい描写が素晴らしい。資本階級（バッタ）と労働者階級（アリ）の世界を描き、最後は勤勉に働くアリたちが、力でなく英知を絞ってバッタをやっつけると いうストーリー。

【トイストーリ２】　2001年作品
おもちゃコレクターに盗まれてしまったウッディ。このままでは日本に売りとばされて しまう。そこでバズたちは、ウッディを助けるために家をとび出した。コレクターの家で、かつての仲間に再会したウッディが、このまま仲間と日本のオモチャ 博物館で生きるか、バズたちのもとに帰るかの選択を迫られたる。この話の肝は、女の子に捨てられたジェシーの回想シーンだ。懐かしいバックグランドミュー ジックが良い。青春は永遠には続かない。やがて捨てられる運命にあるオモチャたちの悲しみを通して人生のはかなさが描かれいる。『スター・ウォーズ』の名 シーンや大列車強盗、ジェラシックパークのパクリが面白い。

【ファインディング・ニモ】　2003年作品
楽しい海の世界が繰り広げられるピクサー製作の冒険アニメーション。心配症のカクレ クマノミ、マーリンの息子ニモがダイバーに捕まってしまった。息子を探しに大海へと旅立つマーリン。旅の途中で忘れっぽいナンヨウハギのドリーに出会い、 助けられたり、足を引っ張られたり。サメ、深海に潜むアンコウ、毒クラゲの大群、ウミガメ、ペリカン、といったたくさんの海の生き物たちと出会い、絶叫マ シンに乗っているかのようなスリル満点の珍道中を経てマーリンは心配症を克服していく。ニモは生まれつき右の胸ヒレが小さくうまく泳げない。それをマーリ ンは気にしている。この子には何も起こらない平穏な生活を送って欲しいと思っている。しかし、何も起こらない人生は結局はつまらない人生だ、というドリー の言葉がこの映画のテーマになっている。

ピクサーのアニメは、手塚アニメ、宮崎アニメにはない人間の内面にテーマを置いている。キャラクタが みんな個性を持って生きている。力を合わせれば最後は悪を倒して幸福を手に入れることができるという人類愛が流れている。残りのピクサーアニメも見てみた いという衝動に駆られている。今度はどんな理由で買うことができるか、それが問題だ。