それは、突然やってきた。

団らんの楽しい語らい。リラックスした音楽。一杯のグリーンティ。

一週間の喧噪が過ぎ去った最も充実した休日の昼下がり。

僕は、居間に置いてあるインターネットで買った真新しいノートブックパソコンに目を向けた。いつもなら、マウスクリックでネットサーフィンを始めるのだが、何か違和感を感じた。

最初の感じは、キーボードがふくらんでいる、ということだった。誰かが、パソコンを落としたのだろうか？

しかし、その形跡はない。

冷静になってみてみると、キーボードの部品が床に落ちている。一部の基盤がむき出しになっている。その時、初めて何が起こったかを理解した。

キーボードがはがされていたのだ。一枚一枚、はがして、中のゴム接点まで丹念にちぎっている。なけなしの小遣いを溜めて買った僕にとってささやかな贅沢品。それを、このように無惨に踏みにじったのは誰だ。怒りが時の経過と共にわき上がってきた。

そんなとき、後ろから視線を感じた。小さな二つの目がじっと見つめていた。紅葉のような小さな手がその犯行を物語っていた。もうすぐ2才になる娘がそこに立っていた。

彼女にとって、それは、楽しいことだったのだろう。マウスをクリックするより、キーボードをたたくより、その部品をぽこぽこはがす事の方がよっぽど面白かったのだろう。

パソコンは、いくらいじっても壊れるものではないという先入観が今回の事態を起こした。確かに、常識的に使っていれば、マウスやキーボードは簡単に壊れるものではない。しかし、キーボードがはがされるという事を誰が想像しただろう。

どんなところにもリスクがあり、何が起こるか分からない。良い教訓を得た。僕は、ニューヨークで起きた、テレビで見た連続多発テロの一場面を思い出した。しかし、これは、テロでも戦争でもなかった。

歩いてきた娘のほっぺを指でつついたら、いつもの笑顔にもどった。
もう、それだけで十分だった。